転職コラムキャリアに効く一冊

キャリア開発に役立つ書籍を毎月ご紹介しています。

2012年5月

The Lean Startup
Eric Ries (著)

IDEO(※1)の創業者や、UC Berkeley、Harvard Business Schoolの教授などから絶賛されている本書は、新規価値創造に向けてチャレンジするスタートアップベンチャーのみならず、創造性を失ってしまった大企業においても役立つ書である。これまでも起業家精神についての研究は沢山あったが、本書はそれらとは一線を画しており、新規価値創出のための精神性やアイディアの重要性ではなく、価値を生み出し実現化して社会に広げるためのオペレーションの仕組みや組織のあり方について論じている。

有形のプロダクトであれ、無形のサービスであれ、新しい価値を生み出すことを可能にする組織はどうあるべきか、筆者自身がベンチャー企業の失敗経験と成功経験を基に、その要諦をまとめたものである。それゆえ説得力や現実感に溢れている。優れた技術やひらめきがあっても、会社として成功しないのはなぜなのか、成功のために必ず押さえなければならないポイントは何なのか、ということが本書の肝となっている。今まで意外に論じられることがなかった、実践的な指針として示されることがなかった、以下のような5つのポイントが挙げられている。

The Five Principles of the Lean Startup

  1. 起業家精神はどこでも発揮できる Entrepreneurs are everywhere.
    アントレプレナー(起業家)は、ガレージの中だけでなく、ベンチャー企業にも大企業にも存在し、リーン・スタートアップのアプローチは、全ての企業や組織において機能する。著者は「スタートアップとは、究極に不確実な状況や状態で新しい製品やサービスを創り出すべく組成された人的組織である。」と定義づけている。
  2. 起業家精神はマネジメントである Entrepreneurship is management.
    アントレプレナーシップ(起業家精神)とは、単に事業分野を切り開く精神ではなく、革新を起こし成長を生み出すためのマネジメントに他ならない。
  3. 有効な学習 Validated learning.
    究極に不確実な状況や状態の中で事業組織をつくるにあたり大事なのが「学習」。成功事例やマーケット予測から学ぶということではなく、失敗を繰り返しながら、自らが立てた戦略や仮説を実証し、そこから継続的に学び成長すること。
  4. 指標化し学習する組織を生み出すこと Build-Measure-Learn.
    「構築―計測―学習」のフィードバック・ループが、リーン・スタートアップの核となる。アイディアを商品化し、顧客の反応を測る。顧客から吸い上げたデータを基に自らの戦略・仮説を検証し、その結果をいち早く商品に反映していく。戦略転換もする。学ぶ。これを繰り返すことで、sustainableなビジネスが生まれてくる。成功しているベンチャーは、このループを繰り返している。
  5. 革新の見える化 Innovation accounting.
    成功へのマイルストーンを設定したり、業務に優先順位付けをしたり、最終的な成果に至るまでの成長過程や指標を明確にし、進捗確認することが重要。

本書は、ベンチャー企業に就職したい人であれば、ベンチャー企業に勤める時の良い心構えとなるだろう。ベンチャー企業への転職を考えている人であれば、応募先ベンチャー企業の組織体系を本書に照らし合わしてみれば、一種のDue Diligenceになるだろう。大企業に勤めていて新規価値を生み出したいと考えている人ならば、現職組織の現状を悲観して転職を考える前に、現職社内で本書を広めて、組織の改善を進めてみてはどうだろうか。さらに、起業を考えている人には勿論のこと、本書を読まずに起業したアントレプレナーにも、必読をお勧めしたい。


(※1):IDEO(米デザインコンサルティングファーム)http://www.ideo.com/

The Lean Startup 出版社:Crown Business(Import)
著者:Eric Ries (著)

リーン・スタートアップ ―ムダのない起業プロセスでイノベーションを生みだす


Amazon


出版社:日経BP社
エリック・リース (著) , 伊藤 穣一(MITメディアラボ所長) (解説)|


■リーン・スタートアップの本質は、不確実で先が読めない時代への挑戦
本書の中でたびたび登場する言葉が「不確実な状況」であり「価値」です。著者はロケットの発射のように綿密な計画を立て、わずかでも仮説が間違っていたために悲惨な結果を招くよりも、自動車の運転のように状況に応じて進路を変えながら進んでいく操縦法が起業においては重要であると説きます。先の見えない不確実ないまの時代、失敗をくり返さなければすばらしい新製品は開発できず、価値を正しく見極め、失敗をムダにしないためのアプローチがリーン・スタートアップです。